在宅介護はどこまで続けられる?家族の疲れに表れる限界サインと次の選択肢

親の在宅介護を続けていると、「もう限界かもしれない」と感じる瞬間は誰にでも訪れます。
夜間の見守りで眠れなかったり、認知症の言動に振り回されたり…。この様なことをきっかけに介護者が疲れ切ってしまうと、家族関係や生活そのものが成り立たなくなることもあります。
この記事では、在宅介護を続けるうえで現れる「限界サイン」、介護度3から特養入居が可能になる制度上の目安、厚労省のデータから見る現実、そして施設入居以外の選択肢までを詳しく解説します。
在宅介護の「限界サイン」とは

体力面に表れる限界
介護は想像以上に体力を消耗します。
⚫︎入浴や排泄介助で時間がかかり過ぎてしまう
⚫︎夜間の徘徊やトイレ誘導で睡眠不足が続く
⚫︎一人で抱えきれない体重を無理に支えてしまう
こうした体への負担は積み重なると「介護者自身が倒れてしまう」という深刻なリスクになります。
精神面に表れる限界
認知症の方の何度も繰り返す同じ質問や、昼夜逆転に付き合い続けると、介護者の心は、だんだんと追い詰められます。
「怒ってはいけない…」と思っても、つい声を荒げてしまう。
そのあとに罪悪感で落ち込む。
この繰り返しで精神がすり減っていきます。

生活全体に表れる限界
介護は生活のリズムを大きく変えます。
仕事をセーブせざるを得なくなり、家計に負担がかかり将来が不安になる。
自分の時間を持てなくなり、大切にしていた趣味や交友関係が失われる。
こうした生活面の変化が重なると、介護の継続そのものが難しくなります。
厚労省データで見る在宅介護の現実
厚生労働省の統計によると、65歳以上の約19%が要支援・要介護認定を受けています。

介護度別で見てみると
要支援1〜要介護1の比較的軽度の方が全体の約49%を占めています。

要介護3以上になると、食事・排泄・入浴といった生活のほとんどに常時介助が必要になる方がほとんどです。
内閣府の調査では、「ほとんど終日介護している」と回答した割合が家族の負担は 要介護3以降で急増 しています。
これは「在宅介護の限界」と「制度上の特養入居の目安」が重なっていることを示しています。

- 要介護1・2では「ほとんど終日介護」は2割以下とまだ少なめ。
- 要介護3を境に一気に跳ね上がり、約36%が終日介護。
- 要介護4で4割超、要介護5では6割以上が終日介護。
介護度1・2と3の違い
介護度1・2の特徴

転倒するリスクなどはあるものの、一部の介助や見守りがあれば日常生活を送ることができます。
入浴や着替えの際に補助が必要になるなど、一人だけでは今まで通りの生活が送りづらい程度で、デイサービスや訪問介護を上手に組み合わせることで、在宅での生活を継続することは可能です。
介護度3の特徴

介護度3になると、日常生活の大部分で常に介助が必要になります。
食事やトイレ、着替えなどを一人で行うことが難しくなるほか、
認知症の進行によって徘徊や昼夜逆転といった症状が見られることも多く、見守りが欠かせなくなったりします。
そのため、ご家族の負担は急激に高まり、無理を続ければ「共倒れ」といった深刻な状況に陥る危険性もあります。
➡︎ この介護度3こそが、特別養護老人ホーム(特養)への入居が可能になる転換点とされています。
制度と現場のギャップ:介護度3でも特養に入れない現実

制度上、特別養護老人ホームへの入居条件は原則「要介護3以上」です。
つまり、家族の負担や疲れが高まったタイミングに制度があわせているということです。
しかし、実際の現場では少し事情が異なります。
私は特別養護老人ホームで「生活相談員」として働き、入居希望者の相談を受けながら、施設のベッドに空きが出ないよう調整する仕事をしていました。
国からは「退院後に住む場所がない」「介護をしてくれる人がいない」「介護度が高い」といった、緊急性の高い方を優先して入居してもらうよう指導されます。
そのため、介護度3の方はなかなか入居につなげにくいのが現実でした。
一方で、介護の現場職員からすると「介護度3くらいの方が多いほうが仕事が楽」という声が上がることもあります。
ですが、介護度が低めの入居者が増えると施設としては「減算(報酬減)」の対象となるため、施設は入居者の介護度を厳しく管理していました。
「制度上は介護度3から特養入居が可能」でも「実際の現場ではそう簡単ではない」というのがリアルな視点です。
在宅と施設、どちらを選ぶ?メリット・デメリットの整理
では、入居できるまでの間や、そもそも施設に入ることをためらうご家庭は、どうやって日々の介護を乗り越えていけばよいのでしょうか。
ここで考えたいのが 在宅介護と施設介護のメリット・デメリット です。
施設に入れば24時間の介護体制が整う一方で、自由度は下がります。
反対に、自宅で過ごせば住み慣れた環境を維持できますが、その分ご家族に大きな負担がかかります。
どちらが正しい、というものではなく、家庭ごとの状況やご本人様の希望に合わせた選択が大切です。
そして在宅を選んだ場合でも、ショートステイやデイサービス・デイケア、自費介護サービスといったサポートを上手に組み合わせることで、負担を和らげることができます。
在宅介護を支えるサービス
ショートステイ

ショートステイは、数日から数週間のあいだご本人様を施設に預かってもらえる介護保険サービスです。
「家族が出張で家を空ける」「介護者自身の体調がすぐれない」「たまにはゆっくり休みたい」そんな時に頼れる仕組みです。
施設では、入浴や食事の介助だけでなく、レクリエーションや機能訓練が行われることも多く、ご本人にとっても刺激や気分転換の時間になります。
また、これから施設入居を考えているご家族様にとっては、施設の雰囲気を試す良い機会にもなります。
ご本人様が気に入れば安心ですし、ショートステイを継続的に利用して施設との関係を築いていくことで、将来的に入居の際にスムーズにつながるケースも少なくありません。
やはり、入居という大きな決断については、「どのような方かがわかっている」という事が双方にとってメリットが多いのです。
さらに、24時間介護スタッフがそばにいる安心感があり、「家族がいない間に何かあったらどうしよう…」という不安を和らげてくれます。
実際に私が生活相談員として相談を受けていたときも、
⚫︎レスパイト(家族のための一時的な休息)目的で利用されたご家族様は、心身ともにリフレッシュされ「久しぶりに自分の時間を過ごせた」と笑顔でお話しされていました。
⚫︎将来の入居に向けて関係作りを目的に利用された方は、施設とのつながりができていたことで、入居の際にスムーズに移行できるケースが多く見られました。
このようにショートステイは、ご本人様にとっても、ご家族様にとっても、安心と次のステップにつながる大切なサービスなのです。
デイサービス・デイケア

デイサービスやデイケアは、日中だけ施設に通い、入浴・食事・リハビリ・レクリエーションなどを受けられるサービスです。
多くの方が「週に2〜3日だけ通う」といった形で利用しており、その間はご家族が仕事や家事に集中できる時間を確保できるのが大きなメリットです。
特にデイサービス・デイケアは「在宅介護のはじめの一歩」として位置づけられることが多いサービスです。
最初は「知らない人にお世話になるのは嫌だ」と拒否されることもありますが、最近は1時間半だけ、あるいは半日だけ利用できるコースも増えてきています。
小さな一歩から始めることで、ご本人にとってもハードルが下がりやすくなっています。
ご本人にとっては、同年代の利用者との交流や、体操・手作業などの活動への参加が心身の活性化につながることもあります。
特に在宅生活が長くなると孤立感を抱きやすいため、外に出て人と関わる時間を持つことはとても大切で、認知症がある方にとっては尚更です。
さらに、デイサービス・デイケアによっては専門職による機能訓練や口腔ケアが組み込まれているところもあり、「自宅だけでは難しい専門的なケアを受けられる」という点でも、ご家族に安心をもたらしてくれるかもしれません。
どちらのサービスも「家族の休息」と「ご本人のQOL向上」の両方に役立ちます。
在宅介護を続けるうえで、無理をせずにこうしたサービスを取り入れることが、長く介護を続けていくコツだと言えます。
自費介護サービス(例:イチロウ)

介護保険サービスだけではカバーしきれない部分を支えてくれるのが、自費介護サービスです。
代表的な例として「イチロウ」があります。
介護保険では対応が難しい「夜間の見守り」「通院の付き添い」「長時間の介護」など、現実にはご家庭が困りやすい場面に柔軟に対応できるのが特徴です。
特に「介護保険の時間数では足りない」「急に人手が必要になった」といった緊急時には心強い存在になります。
イチロウは 24時間365日利用可能 で、最短5分で介護士がマッチングされる仕組みを持っています。
ご本人やご家族の状況に合わせて、必要な時間・内容を自由に依頼できるため、「介護認定がまだ下りていない」「介護度が低いけれど見守りが必要」といったケースでも利用できます。
さらに、利用後には写真付きのレポートが送られてくるため、離れて暮らすご家族も安心して状況を確認できる点も大きなメリットです。
料金は全額自費となりますが、その分、自由度と即応性が高く「保険外のセーフティネット」として在宅介護を続けるうえで欠かせない存在になりつつあります。



家族の葛藤と心理
在宅介護を続けるなかで、ご家族様の心には大きな葛藤が生まれます。
施設入居のための書類の中には「どのくらい介護に困っているか」を尋ねる項目が設けられていて、そこには「本人に手をあげそうになる」「本人を無視してしまう」といった、普段はなかなか口にできない項目が並んでいます。
こうした質問があること自体、介護がご家族にどれほど強い負担を与えているかを物語っていますし、同じように悩んでいる家庭が少なくないことの証でもあります。
「自分がやらなければ」という責任感
多くのご家族様は「親の介護は自分がするのが当然」「介護を他人に任せるのは親不孝ではないか」という思いを抱えています。
そのため、介護サービスを利用することに罪悪感を覚えたり、「自分だけが楽をしている」と感じてしまうことも少なくありません。
「限界なのに言い出せない」ジレンマ
実際には、身体的・精神的に疲労がたまっていても「介護をやめたい」とは言えないのが現実です。
特にご本人様が自宅を強く希望している場合、ご家族様は「在宅で頑張り続けなければ」と無理をしてしまいます。
その結果、「共倒れ」に近づいてしまう危険性があります。
「施設に入れたい」という気持ちとの揺れ
介護度が上がり日常生活の大部分に支援が必要になると、「施設にお願いした方が安心では?」と考える場面も増えてきます。
しかしその一方で、「本人の希望を優先すべきでは」「最期まで自宅で過ごさせたい」との思いもあり、ご家族様の中で気持ちが揺れ動き続けます。
「他の家族はどうしているのだろう」
介護は家庭ごとに状況が異なるため、正解がありません。他の家庭と比べて「自分は頑張れていないのでは」と感じ、孤独感を深めてしまう方も多いです。
特に在宅介護は外部から見えにくいため、悩みを一人で抱え込んでしまう傾向にあります。
在宅介護はご本人様のために続けたいけれど、同時に家族の心身に大きな負担がかかっています。
介護は“きれいごと”だけでは続けられないからこそ、サービスを活用してバランスをとることが大切です。
介護度5でも在宅で看取る家庭もある

どれほど大変でも、在宅で最後まで看取る選択をするご家庭もあります。
訪問介護や訪問看護、在宅医療を活用し、本人の「自宅で過ごしたい」という願いを叶えるケースです。
もちろん介護者の負担は非常に大きいですが、「家で一緒に過ごせたことが何よりの思い出になった」と話す家族も多くいますし、「完璧にしないことが幸せの鍵だ」といって良い意味で適当にしていたご家族様もおられました。
➡︎施設入居か在宅か。どちらが正しいではなく「その家庭に合った形」を選ぶことが重要です。
まとめ 限界を迎える前に次の一手を
- 在宅介護の「限界サイン」を見逃さない
- 介護度3は施設を検討するひとつの目安
- ただし、介護度5でも在宅を選ぶ家庭もある
- 大切なのは「本人と家族の納得できる形」
在宅か施設かを迷うとき、最も危険なのは「限界を超えてしまうまで我慢すること」です。
ショートステイや自費サービスを活用しながら、家族が共倒れしない介護を目指しましょう。